せんだいG&Aクリニック様の開業を支援

2021年10月1日に、仙台市営地下鉄東西線の東の終点にある荒井駅前に開業した「せんだいG&Aクリニック」。

New Trends managementでは、場所探しから融資のための銀行との交渉、事業計画書の作成、各種申請関係の手続き、医療機器の選定、クリニックの図面制作支援、スタッフの採用・面接など一式を支援させていただきました。院長の滑川明男先生にお話を伺いました。
(インタビュー・大橋博之)

滑川明男/せんだいG&Aクリニック院長

1988年、東北大学医学部卒。2013年まで仙台市立病院で内科系(循環器内科)医師として勤務。2014〜2015年、静心会国見台病院精神科での研修を経て、2015〜2021年、仙台市立病院精神科にて勤務。2006年〜、仙台グリーフケア研究会で、わかちあいの会(セルフ・ヘルプ・グループ)を主宰。2021年、仙台市営地下鉄東西線・荒井駅前に、グリーフケアと依存症に特化した「せんだいG&Aクリニック」を開業。

日本精神神経学会、日本グリーフ&ビリーブメント学会、日本循環器学会等に所属。東北医科薬科大学非常勤講師、 東北福祉大学非常勤講師。

グリーフケアと依存症に特化したクリニック

──「せんだいG&Aクリニック」とは、どのようなクリニックなのですか?

滑川

2021年10月1日に、仙台市営地下鉄東西線の東の終点にある荒井駅前に開業しました。診療科目は精神科と心療内科で、グリーフケアと依存症に特化した治療を行っています。

──どのような特徴があるのでしょうか?

滑川

G&Aの「G」は、「グリーフ」。大切な人を亡くされた方が抱える悲しみや辛さ、そうした喪失に対するケアを行っています。「A」は「アディクション」。依存症のことで、アルコールやギャンブル、薬物といった、精神科でも敬遠しがちな分野の治療を行っています。

──特殊な分野を扱っているのですね。

滑川

そうですね。大切な人を亡くされた方は気持ちが落ち込み、鬱状態になり、精神科のクリニックを受診されます。でも、グリーフを専門に診るクリニックはありません。また、依存症専門の病院は、仙台には東北会病院がひとつあるだけです。

──仙台と聞くと、やはり東日本大震災を思い起こします。そのこととも関係しているのですか?

滑川

グリーフケアは震災の前から取り組んでいたことです。最初は大切な人を自死で亡くされた方のグリーフケアを、仙台グリーフケア研究会というNPOを主宰して対応していました。それは医療的な行為ではなかったので、治療として処置してみたいと考え、クリニックを始めました。

──患者さんはいかがですか?

滑川

クリニックを立ち上げて3か月ですが、幸か不幸か患者さんは徐々に増えています。思った以上にグリーフとアディクションを抱えていらっしゃる方が来られます。

開業するまでの苦労を味わなくて済んだ

──丹野さんはどうして滑川先生のコンサルティングを担当することになったのですか?

丹野

私は今の事務所(New Trends management)を立ち上げる前、医師会と業務提携をしている会社に勤めていました。医師会経由で滑川先生のご家族の生命保険の見直しをお手伝いしたことが出会いです。
ただ、その時は変える必要がなかったため、「このままで良いと思いますよ」とお返事しました(笑)

滑川

そのとき丹野さんは、私のグリーフケアの活動のチラシを作って、医師会が発行している会報と一緒に発送する提案をしてくれました。とても助かりました。それでクリニックの開業を考えたとき、丹野さんに相談することにしたんです。

──滑川先生はどうして、クリニックを開業したいと考えられたのですか?

滑川

私は仙台市立病院に勤めていました。もともとは循環器内科で心臓が専門です。しかし、グリーフケアの活動をする中、精神科の知識が必要と考え、静心会国見台病院精神科で研修を受けた後、仙台市立病院の精神科で勤務していました。
その過程で、グリーフや依存症の方々が専門の病院とつながれずに困っている現状を数多く見てきました。私は今、60歳です。あと何年、医者を続けられるのかと考えたとき、独立するなら今しかないと思いました。

──社会的な課題とご自身の人生を考えてクリニックを始めようとされた。それで丹野さんに相談されたのですね。

滑川

そうです。開業はひとりでは無理だと思っていました。丹野さんは面倒なことは全部、やってくれる。丹野さんがいなければ私は今も仙台市立病院に勤めていたと思います(笑)。

丹野

精神科のクリニックは沢山ありますが、グリーフとアディクションに特化しているクリニックは、ないに等しい。滑川先生の人柄も良いので、何かお手伝い出来ないか思いました。正直、新しく開業する先生からすると滑川先生は高齢になります。できるだけ負担をかけないようにと考えました。

──丹野さんはどのような開業支援をされたのでしょうか?

丹野

クリニックの場所探し。それから銀行から融資を受けるための交渉と、そのための事業計画書の作成。各種申請関係の手続き。あと、医療機器の選定、クリニックの図面制作支援。スタッフの採用・面接など、一式を支援させていただきました。

滑川

診療に関するイメージはありましたが、それ以外のことは全く分かりませんでした。先輩たちから開業するまでの苦労を聞かされていましたが、私は丹野さんに総て丸投げしたことで、その苦労を味わずにすみました(笑)。

丹野

滑川先生は丸投げとおっしゃいますが、私は「こうしてください」と指示するコンサルティングはあまり好きではありません。ABCと複数のプランを立て、それを先生に提示して、最終的には先生に選んでいただくようにしています。もちろん、どれを選んでも大丈夫なように考えたうえでです。

銀行から問題なく融資を受けることが必要だった

──開業までどれくらいの日数がかかったのですか?

丹野

最初に打ち合わせをしたのが、2020年の8月。2021年10月の開業なのでほぼ1年を費やしたことになります。

──どこに時間がかかったのですか?

丹野

場所探しです。クリニックの開業に適したビルを探すのに時間がかかりました。とはいえ場所も生き物です。後で「先ほどの場所がいい」と言っても他の方に取られていることもあります。そこの目極めは重要です。場所が決まってからはスピーディーに進みました。

滑川

丹野さんが候補リストを作ってくれて、その中で選んだのが、荒井駅前のビルでした。自宅からも遠くもなく、交通の便もそれなりに良い。とても良い場所だったと思っています。

丹野

精神科のクリニックはあまり目立たない場所にあるものです。ビルの1階にはほぼありません。「せんだいG&Aクリニック」さんも2階です。患者として通っていることを見られたくない方が多いからです。ただ、滑川先生のクリニックは一般的な精神科ではなく、グリーフとアディクションの意味合いがあるので、患者さんは広い範囲からいらっしゃいます。そのため交通の便を優先しました。

──大変だったのはどういったところだったのですか?

丹野

先生の年齢のことがあったので、銀行から問題なく融資してもらうことでした。そのため、事業計画書は説得力のあるものとし、夢物語にならないことを心掛けました。特に事業計画の数字には気を使いました。また、精神科やデイケアのクリニックでは、面積の基準や看護師、精神保健福祉士などの職種の制限もあります。そのような基準をクリアしないと取れない保険点数があります。診療所の平米数に間違いがある、職員の数に間違いがあるとなると大変なことになります。そこにも気を使いました。

──医療機器の選定も助言したのですか?

丹野

私は医療機器メーカーの出身なので、クリニックが一般的に使用する機器の知識はあります。最前線は離れていますが、常に情報はキャッチアップするように心掛けています。
とはいえ、精神科なので機器はそれほど多くはありません。心電図とかそのようなものです。

滑川

丹野さんから販売店も紹介してもらいました。最終的には私のつながりのあるところにお願いしましたが、販売店や機器を強制されると言うことはなく、丹野さんの提案を見て、いいものを選択しました。

──クリニックの図面制作支援とは?

滑川

デイケアには大きなスペースが必要です。設計士さんとの打ち合わせでも丹野さんが入ってくれました。内装はできるだけグリーンをイメージしたかったということも、丹野さんと相談しながら進めました。出来上がってみると本当に落ち着ける感じの診療所になっています。

──それから採用面もなんですね。

滑川

丹野さんと一緒に医療事務員さんと精神保健福祉士さん、あと心理士さんを選ばせてもらいました。実績のある人に来てもらえることになり助かっています。

丹野

医療事務は通常の事務とは違います。電子カルテ、レセプトの経験も必要です。また、標榜科目によっても変わってきます。例えば医療事務経験は長くとも皮膚科だったというのでは、場合によって戦力になるまで時間がかかることもあります。
求人を出すにも「このようなスキルを持った人が欲しい」と的確に伝えないといけません。また、待遇面も市場を調査し、適正な給料にする必要もあります。

滑川

社労士さんにも関わってもらっていましたが、待遇面を丹野さんと相談しました。あと、就業規則も作ってもらいました。社労士さんと私の二人では分からなかったことが、丹野さんに助けてもらいました。

コンサルティングという業務はここまでやってくれるのかと驚いた

──開業されて、これで丹野さんとの関係は終了となるのでしょうか?

滑川

いやいや、むしろこれからです。丹野さんには、税理士さんとの毎月の売上の確認にも関わってもらっています。数字だけを見ても事業としてうまく行っているかは私では分かりません。患者さんは増えていますが、採算ベースには乗り切れていません。そのため、丹野さんのアドバイスをもらいながら進めています。

丹野

税理士さんの言葉は意外と難しかったりします。それを私がなるべく噛み砕いて説明しています。また、逆に税理士さんには診療材料や医療機器の名称だけでは、何のことか分からないこともあります。そんな時は私が説明しています。

滑川

税理士さんは私と付き合いのあった方です。関係はとても良好です。

──滑川先生は今後、どのようにしたいとお考えですか?

滑川

ある程度、収入が得られて仕事として成り立つとなれば、他にも「アディクションのクリニックを私もやろう」と考える医師が現れるのではないだろうかと期待しています。私は60歳であと何年、医師をやれるか分かりません。残りの時間で後に続いてくれる人が出てくるようなクリニックにしたいと考えています。

丹野

私自身、仙台になくてはならないクリニックのお手伝いをしているという誇りを感じます。将来的にはもっと有名になって、「私がお手伝いした」と胸を張って言えるように支援させていただきたいですね(笑)。

──滑川先生の周りの人たちからの評価はいかがですか?

滑川

私はあまり他人の評価は気にしないので分からないのですが、精神科の医師に限って言うと、大きな病院でも精神科医は足りていないと言われています。いろんなクリニックに話を聞くと予約がいっぱいで、新しい患者さんは受け付けられないというところもあります。その意味ではニーズがあるようです。

丹野

クリニックの収益性の改善方法はいくつかあります。歯科クリニックは自由診療の部分が多いので、マーケティングが必要です。廃業するクリニックもありますが、診療報酬も下がっては来ています。とはいえ、診療報酬で守られているので開業すればなんとかなる時代ではあります。
ただ、滑川先生に関しては、今までにない活動をされているので、マーケティング施策が必要になってくると考えています。しかし、医療は広告規制があり、大々的な宣伝はできない。そこは上手く考えなければなりません。

──滑川先生は「もっとこうしてくれたらよかったのに」ということはありますか?

滑川

いや、特にありません。コンサルティングという業務はここまでやってくれるのかと驚きました。

──丹野さんの反省点みたいなのはありますか?

丹野

精神科は診療科目として立ち上がりが遅く、運転資金が通常のクリニックに比べて必要なのが特徴です。ところが、「せんだいG&Aクリニック」さんは、完全予約制で、専門性に特化したクリニックです。
収入は厳しくなると考え、実は滑川先生に一度、「軌道に乗るまで一般患者を診た方がいいんじゃないですか」と助言したことがあります。でも、先生は「このままで行く」と決断されました。今、考えるとそれは正しかったと思います。

滑川

アドバイスはありたかったですが、いつかは患者さんが来ると考えています。専門のクリニックはありません。だからこそのやりがいがあります。そこにこだわりたいと思いました。

丹野

コンサルティングはリスク回避を考えてしまいます。そのため守りに入ることがあります。しかし、先生のように専門性で特化して行くと決断することも大事だと勉強になりました。

──丹野さんとしては、他の開業したい先生方に、どうように支援をして行くお考えですか?

医師の開業支援では、この機器にして欲しいとか、この場所がいいと言った、少し強引な案内が多いものです。私の場合は、どこともしがらみはありません。その意味からも、公平なお手伝いを心掛けていますし、それができるのが自分の良いところだと思います。いろんな先生のお手伝いができたらと思っています。

──ありがとうございました。

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この記事を書いた人

New Trends Management代表
■資格/AFP(日本FP協会認定) 
■趣味/バスフィッシング、野球観戦
■出身/宮城県仙台市

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