在宅医療へのニーズの高まり
超高齢社会に突入した日本では、在宅医療の必要性が日増しに高まっています。
現在、日本では1年間に約130万人の方が亡くなっていますが、2030年には160万人に増加すると予想されています。そのうち、約98万人が病気で亡くなりますが、医療費の削減が急務となっているため、病院数や病床数の大幅な増加は見込めません。
また、介護施設と在宅を合わせた看取りの数は、現在約26万人ですが、介護保険の財源が逼迫している中で、在宅での看取りが増えなければ、多くの人にとって「死に場所」が不足することになります。
地域包括ケアシステムの構築
厚生労働省では、団塊の世代が高齢者となる2025年までに「地域包括ケアシステム」を構築するための制度改革を進めています。
地域包括ケアシステムとは、重度の介護が必要になっても、住み慣れた地域で自分らしい生活を人生の最後まで続けることができるよう、住まい、医療、介護、予防、生活支援が一体的に提供されるシステムのことです。必要なサービスが30分以内に提供される日常生活の単位として、中学校区を想定しています。
「往診」と「訪問診療」
在宅医療には”往診”と”訪問診療”の2種類があります。
往診とは、病状の急変時に患者やご家族の要請に応じて、診療を行うことです。一方、訪問診療とは、通院が困難な患者のために、週1回または2週間に1回、自宅や施設を計画的に訪問して診療を行うことです。
在宅医療の範囲は、原則として医療機関から16km以内としています。
在宅医療の魅力
「在宅医療の魅力は何ですか?」と問われると、「患者と深く関われるから」と答える医師が多いように感じます。
また、開業するという観点では、投資が少ないことも魅力のひとつかもしれません。
患者や家族と深く関われる
在宅医療では多くの場合、患者やご家族の自宅や老人ホームなどの施設を訪問するため、必然的にプライベートな部分に立ち入ることになります。
そのため、ご家族との関係が密になり、人生の最後までお付き合いが続くことも珍しくありません。適切な医療を提供することはもちろん、「患者や家族と向き合い、心からの感謝を受けたい」と願う医師にとっては、最適な診療スタイルといえるかもしれません。
開業時の資金面でハードルが低い
もうひとつの魅力は、開業するための資金面でのハードルが低いことです。
以前は、訪問診療専門のクリニックを開業するにしても、基本的には外来患者を受け入れる体制が必要でした。しかし、団塊の世代が高齢者になる2025年は近づいてきたこともあり、2016年に訪問診療専門のクリニックの開設が正式に認められました。
必要な要件を満たしていれば、マンションの一室でもクリニックを開設することができ、外来患者を診ることなく、在宅医療に専念できる環境が整いました。
在宅医療における経営のポイントは2つ
在宅医療における経営のポイントは、「患者紹介ルートの確保」と「業務効率化」の2点です。
患者紹介ルートの確保と関係構築
1つ目のポイントは、患者の紹介ルートを確保し、関係性を構築することです。
外来診療に特化したクリニックとは異なり、在宅医療では患者が自ら来院することはほとんどありません。多くの場合、多職種の専門家からの紹介がきっかけとなります。クリニックを認知してもらうという点では、一般のクリニックと変わりませんが、在宅医療ではより顔の見える関係を築くことが大切です。
人間関係の構築に近道はありません。介護支援事業所や訪問看護ステーション、病院などにパンフレットを配布したり、地域で勉強会を開催するなど、地道なPR活動でクリニックを知ってもらう努力が必要です。
業務オペレーションの効率化
2つ目のポイントは、業務の効率化です。
在宅医療では、通常の診療よりも複雑な事務手続きが生じます。訪問診療の契約締結や、治療費の請求などの金銭管理、薬局への薬の手配などです。
特に、限られた時間の中で患者宅を訪問するためには、効率的で計画的なスケジュール作成が重要です。在宅医療に特化したクリニックを運営するには、通常とは異なるオペレーションが必要です。そのため、適切なアドバイスを提供できる業者はまだまだ少ないのが現状です。
在宅医療はクリニック経営の重要なファクター
在宅医療というと、過疎地の特殊な医療というイメージがありましたが、高齢者の増加に伴い、地域医療の一環として身近な存在になりつつあります。
厚生労働省も増加する終末期患者の受け入れ先として、在宅医療を提供する医療機関に大きな期待を寄せています。その証拠に、最近に診療報酬改定では、重症度や訪問回数に応じて報酬が変わる仕組が導入されるなど、在宅医療が高く評価されています。
24時間365日の体制は必ずしも必要ありませんが、体制を整えれば点数が加算され、往診や看取りの実績がある医療機関はさらに報酬がアップする仕組が取られています。
医師一人あたりの患者数は減少傾向にあり、今後の診療報酬改定によっては、外来専門クリニックの経営が厳しくなる可能性があります。事業を継続するためには、外来患者以外の収入源を確保する必要があるかもしれません。
すでに開業している医師にとっても、在宅医療に無関心ではいられず、今後の需要をより注視していく必要があります。