事業承継と相続
事業承継ができずに廃業するケースもある
中小企業における事業承継が社会的な課題として深刻化しています。
そこには、団塊の世代の経営者の高齢化が進んでおり、引退時期が迫っているという背景があります。
「仕事は大変なので、親族や従業員に継承させるのは心苦しい」という経営者もいますが、会社を存続させたいが、継承できる子どもや適切な後継者がおらず、そのため廃業を余儀なくされる会社も少なくありません。
事業に将来性がないのであれば仕方がないとも言えますが、業界や地域から求められている技術やサービスを持ち、今後の成長も期待されるのに、事業承継ができないためにたたんでしまうケースもあります。そのような黒字にも関わらず廃業する会社は実に61.5%、赤字で廃業する38.5%を上回っています。
参考:中小企業庁|データで見る事業承継
専門家のアドバイスが重要
事業承継では「人」ばかりが注目されていますが、子どもが継いでくれたり、後継者が見つかったとしても、それで総てが解決するわけではありません。
このとき、忘れてはならないのが「相続」も関係してくるということです。
一般的に相続は、個人が死亡した場合、有していた財産や権利を配偶者や子どもなどに承継させる制度のことを言います。事業継承でも経営者の財産や権利を継承させるのですから、当然、相続税が発生し、それに対する相続対策も重要となります。
特に事業承継においてはさまざまな相続対策がありますが、ケースバイケースのため、どれが適しているかは分かりずらいものです。だからこそ、専門家のアドバイスが必要となってきます。
私が担当させて頂いた案件では、不動産の建て替えをして一時的に株価を下げ、相続対策も含めて事業継承を行ったことや、生命保険を利用して出資を一部下げたこともあります。他にも、国の事業承継税制という、後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度を利用して円滑に事業承継を進めたこともあります。
大問題に発展しないよう、事前の準備が大切
また、もうひとつ大切なことは、「財務面での確認」です。
ひとつの事例を紹介します。私は、保険の業務も扱っています。そのため、ある会社の経営者から単純な保険の相談を受けました。法人で保険に加入するためには、資金繰りも考えなければなりません。そのため、決算書をお預かりして株価を計算してみたのですが、問題点が発覚しました。
経営者に「このことをご存じでしたか?」と伺ったところ、「知りませんでした」とのお返事でした。「この状態で、後に相続するとしたら、これくらいの納税金額が発生することになります。対策が必要です」とご提案したところ、相続の相談も請け負うことになりました。
なぜ、このようなことになったのかというと、経営者のなかには経理は税理士に任せきりで、自分はあまり分かっていないということがよくあるからです。
あなたはいかがでしょうか?
一般的な税理士の仕事は税の計算をすることです。終わった後の処理をするのはプロです。それは例えるなら、火災が起こったとき、火災現場の始末をするようなものです。
しかし、私の仕事は火事が起きないようにすることです。つまり、事業承継や節税に関わる、経営のコンサルティングをさせて頂くことを専門としています。
事業承継をして、継いだ方が困らないよう、財務諸表を審査して問題点を指摘する。資金繰りで課題あれば洗い出す。他にもおかしなところがないかを調べ後々、大問題へと発展することを防ぎます。
経営者は事業と個人を一体として考えるべき
中小企業の経営者は、事業と個人を切り分けることはどうしてもできないものです。むしろ、完全に一体として考えなければなりません。
事業だけで考えると後で相続で困ることがあります。逆に個人の財産のことだけを考えると経営が上手くい行かないことが起こり得ます。そのため、本末転倒になることがあります。
例えば、事業だけを見て、「儲かったので法人税を節税しよう」と、経営者に役員報酬を支払うことがあります。しかし、法人税は30%前後。対する個人の所得税率の最高税率は45%。住民税を加えると55%です。法人税の方が税率は低いのですから、役員報酬を受け取らず、むしろ法人税を支払った方が節税になります。これは事業だけを見ていることで起こってきます。
事業継承でも同じような問題が出てきます。
会社の不動産や株も財産です。例えば経営者に奥さんと男の子の子どもが2人いたとするなら、相続では奥さんは1/2、長男と次男の2人に1/4ずつ分配します。ところが、長男が事業承継した場合、引き継いだ財産が長男に偏ってしまうことになり、次男から「なぜ、財産が少ないのか」と不満が出る可能性があります。
次男は納得していても次男のお嫁さんが不服を言い出すことがあります。このような骨肉の争いが起きないための方法を、事業承継を決めた段階で考えなければなりません。 事業だけで考えるとドライに考えることができますが、個人で考えると人の気持ちも考慮する必要があるのです。
M&A(他人への事業承継)
会社をたたむのにもデメリットがある
冒頭で書いた通り、継承できる子どもがおらず、適切な後継者が見つからないため、廃業に至る経営者は多くいます。
そのような場合は、M&Aを考えてみることをおススメしています。
ひと昔前までM&Aは「乗っ取られる」とか「買い叩かれる」といった、あまりいいイメージはありませんでしたが、今ではかなり一般的になってきました。
中小企業が事業たたむ場合、デメリットも生じます。
例えば、従業員に退職金を支払わなければなりません。会社の敷地があるなら売ってその費用に当てることもできますが、借地の場合、それは叶いません。他にも建物を取り壊す、機器や資材を廃棄するのに費用が思いのほかかかるなど、会社を清算するのに多額の費用が発生することがあります。
M&Aが上手く成功すれば、従業員はそのまま雇用してもらう、土地や建物もそのまま継承してもらうことも交渉次第では可能です。そうすれば残せる資産も多くなります。
また、「うちは有限会社だから売れない」と思われている方が多くいますが、有限会社でもM&Aは可能です。私は今後、10年、20年も経つと有限会社の価値は上がると考えています。有限会社はもう作れない法人格です。有限会社というだけで長く続いている会社だと認識してもらえます。
M&Aをスムーズに進めるために
M&Aで会社を売却する場合、M&Aの仲介業者に依頼することになります。仲介業者は会社を査定し評価します。
私にM&Aで相談があるのは、「この評価が妥当かどうかを調査して欲しい」というときです。仲介業者を信用していないわけではないにしろ、経営者が長年育てて来た大切な会社です。「仲介業者に言いくるめられたくない」、「正当な評価で少しでも高く売却したい」という想いは理解できます。
私が加わり第三者としての評価することで、仲介業者との評価の差が確認できます。差があまりない場合は納得できますし、仲介業者の評価が低い場合、交渉の材料にもなります。
このことでM&Aはよりスムーズに進めることができます。 また、どこのM&Aの仲介業者がいいのかよく分からない場合、私の方でM&Aの仲介業者を紹介することも可能です。
M&Aで総てが終わるのではない。そこから先の人生も考える
M&Aはネットでも簡単に出来るようになりました。しかし、従業員の退職金が引き継がれていないとか、事業継承した前後の数か月後に発生したトラブルはどちらの責任なのかも明確にしないまま進めてしまい、後に問題に発展することもあります。
契約の段階で希望や条件はきちんと要求しないとなし崩しになってしまうものです。それは経営者がM&Aに精通していないと難しいのも事実です。その部分で私がアドバイスをさせて頂きます。
大切なのは会社を高く売ることだけではありません。先に書いた通り、事業を清算するにも費用がかかります。どうするのがいいのかを冷静に考える必要があります。
なにより、会社を売却しても経営者の人生は続きます。「引退して趣味を楽しむ」という方なら良いですが、「経営はリタイアしたいが、元気な間はスタッフとして働きたい」という方もいます。こうした希望も仲介業者に伝える必要があります。
M&Aで総てが終わるのではなく、そこから先の人生についてもサポートをさせて頂きます。
もちろん、M&Aが必ずしも総て上手く行くとは限りません。やってみないと分からないことはありますし、時間がかかる場合もあります。 そのためにも、今の事業を正しく評価しておくことが大事になります。これくらいで売れるということが分かれば、それだけで交渉はスムーズに進むものです。