開業がゴールではない
開業はゴールではなく、スタート地点に立ったに過ぎません。
開業はそれほど難しいことではなく、医師が必要な手続きを行えば、比較的簡単に開業することができます。
クリニックの数は増え続け、全国で10万件を突破しました。近くに同一の診療科が複数あることも珍しくなくなり、1施設あたりの患者数も減少傾向にあります。また、政府の医療費抑制策による医療費の引下げも続いており、今後の引き上げが望めないのが現状です。
そのような環境下でも、もクリニックの開業は小売店や飲食店をオープンさせることとは大きく異なります。一般的に起業した個人事業主のうち、5年後に事業を継続しているのは約25%に過ぎず、4分の3が廃業していることになります。
一方で医療機関の倒産件数は徐々に増えてはいるものの、年間多くて20件程度しかありません。開業すれば自動的に患者が集まるという時代ではなくなり、他のクリニックとの競争も激化しています。それでも、診療報酬に守られている以上は、他の業種に比べ失敗する可能性は低いといえます。また、医療機関の開業は単なる起業ではなく、今後さらに発展する超高齢化社会のインフラ整備に貢献するという点でも、他の産業とは異なる意味をもっています。
開業の動機は「プライベートの時間を確保したい」、「自分のスタイルで医療を提供したい」、「今よりも収入を増やしたい」など様々です。しかし、最も重要なことは、地域の患者のために事業を存続させ、質の高い医療を提供しつづけることです。
開業を成功させるには経営者意識が必要
成功するクリニックは、院長が経営者としての役割を自覚しているクリニックです。
開業した瞬間から、院長は医師であると同時に経営者となります。経営者とは、事業や組織の運営に責任をもつ立場にある人のことです。しかし、当然のことながら、経営者としての経験がある医師は少ないのが現状です。
多くの医師は、マネジメントを勉強したことも、経験したこともありません。勤務医の場合は日々の診療がメインですが、開業するとスタッフの労務管理や会計、各種の手続きなどを自身で行う必要があります。残念ながらこれらの業務は税理士や社労士、あるいは雇っている事務長にすべて任せているケースも少なくありません。
地域医療に貢献し、クリニックとして成長するためには、開業時に投資した資本を回収し、利益を積み上げていく必要があります。自身のクリニックだからこそ経営状況を把握しておかなければなりません。
何が何でも事業を継続するという強い意思がなければ、事業の発展と継続は望めません。開業を決意したときから、経営者としての自覚が求められるのです。
開業前にすべきこと
クリニック開業しようと決意した場合、一般的には次のような手順で進めることとなります。
経営理念を含むコンセプト設計、開業スタイル、資金調達、医療機器の選定、スタッフの採用などが主な業務です。中でも、保健所や厚生局への届出は、タイミングを誤ると計画通りに開業できないこともあるので注意が必要です。
STEP01 経営理念の作成
開業を決意して最初に決めなければならないことは、経営理念です。
経営理念とは、経営者の考えや信念を述べたもので、活動方針の基礎となる基本的な考えのことです。クリニックに当てはめれば、「開業の目的」や「診療方針」を決めることに相当します。
開業となると、どうしても立地やコストに目が行きがちですが、経営理念が明確でないと失敗する可能性が高まります。自身のスタイルに合わない開業をすると集患に苦戦したり、不要な設備を導入する結果になりかねません。
幅広い年齢層をターゲットにしたファミリークリニックなのか、高齢者医療を中心に在宅診療を実施するのか、開業してどのような医療を提供したいのかを明確にする必要があります。開業の第一歩は”どんなクリニックにしたいのか”、つまりあるべき姿の理想像を決めることです。
STEP02 開業場所の選定と診療圏調査の実施
開業場所の選定と診療圏調査の実施は、経営理念や診療方針に次いで重要な決定事項です。1度決めた開業場所は簡単には変えられません。
開業形態としては、「戸建て」と「テナント」の2種類に分類されます。診療スタイルや導入する設備、資金計画など、諸々の制約や条件を考慮して、慎重に検討することが大切です。
戸建て開業の場合は、設計の自由度が高く、車での通院も含めて理想のクリニックを実現できる可能性が高まります。その反面、コストが高く、場合によっては資金調達に苦労するかもしれません。
一方、テナント開業では、物件の選択肢が多く、戸建てに比べてコストを低く抑えられます。特に医療モールや商業施設は認知度も高く、患者が集まりやすい傾向にあります。デメリットとしては、給排水や電気容量に制約があり、設計の自由度が低いことが挙げられます。特に商業施設は管理会社のルールや取り決めが多く、診療日や診療時間などを自由に決められないことがまれにあります。
どちらの形態を選択するかは、診療科目や地域、導入する設備など、多くの要素を考慮して決定します。
開業するのに適した場所とは?
開業に適した場所は、以下の条件を満たす場所です。
- 交通の便がよくアクセスしやすい
- 周辺地域に患者人口が多い
- 開業するためのコストが低い
- 競合するクリニックが少ない
残念ながら、上記すべての条件を満たす立地を確保することは困難です。そのため、自身の理想とするクリニックに合わせ、優先順位をつけて決めていくことになります。
下記に特徴をまとめました。
都心 | 都心 | |
---|---|---|
メリット | ・アクセスしやすい ・人口が多い ・駅前であればスタッフが採用しやすい | ・競合が少ない ・集患がしやすい ・患者の特徴を把握しやすい ・駐車場を確保できる |
デメリット | ・競合が多い ・アクセスがいいほどコストが高い ・駐車場が確保しにくい ・目立ちにくい | ・開業場所がみつかりづらい ・人口構造が変わる可能性がある ・開業形態によってはコストが高い ・調剤薬局が近隣にないケースがある |
都心や駅前はアクセスが良いので多くの人が集まりますが、その分、競合クリニックも増加します。また、初期投資が少なくても、運営費や人件費などのランニングコストが高くなりがちです。
対して郊外では、公共交通機関でのアクセスが不便でも、車移動が中心の場所であれば、集患に影響はなく、むしろ都心よりも優れている場合もあります。ただし、新興住宅地などの人気エリアは、土地の取得費用が高く、初期投資が大きくなる場合があるので注意が必要です。また、他のクリニックが既に開業を計画している場合もあるので、より詳細な情報収集が欠かせません。
診療圏調査とは?
診療圏調査とは、ある場所でクリニックを開設した場合、1日にどれくらいの患者が訪れるかを推定する調査です。
その地域の人口、受療率、競合クリニックなどを考慮して算出されます。受療率とは、ある特定の日に通院した患者数を人口10万人あたりの患者数で割った比率のことで、厚生労働省が発表している統計です。
診療圏調査は、医療機器メーカーやディーラー、リース会社などが無料で提供しています。各社、精度や内容が異なりますので、判断する際には注意点を知っておく必要があります。
診療圏調査のポイント
調査を行う上でポイントとなるのは、商圏の設定です。
開業地を中心に半径500mから1km程度を設定するのが一般的ですが、標榜科目や地域の特徴によって異なります。商圏を広くするほど人口が増えますが、同時に競合も増加するので、患者数は必ずしも増えません。
また、忘れてはならないのが、生活動線を意識することです。線路や河川、駅前や駅裏などで生活導線が分断されている場合があります。さらに都心では昼間人口と夜間人口を意識する必要があります。
生活導線による分断や夜間・昼間人口を考慮した診療圏調査を行える会社もあるので確認してみるといいでしょう。ただ、調査結果を鵜呑みにしてはいけません。大切なのは、自分の足で周辺環境を確認することです。
STEP03 開業スケジュールの作成
計画の核となるのが開業スケジュールであり、進捗管理の役割を担います。
経営理念や診療方針などの基本コンセプトを策定しながら、全体のスケジュールを調整していきます。開業日が決まっているのであれば、逆算して計画を立てます。
開業地の選定、資金調達、設計・施工、医療機器の購入、スタッフの採用・教育など、同時に行わなければならないことがたくさんあります。
一般的には、開業を決意して実際に開院するまで約1~2年かかります。その間、現在の職場で働きながら、休日などを利用して準備を進めていくことになります。どんなに準備期間を設けても、開業が近づくほど忙しくなってしまうケースがほとんどです。
重要な判断をおろそかにしないためにも、やるべきことをポイントごとに整理し、全体の流れを把握しておくことで、不足の事態にも対応することが可能となります。
STEP04 事業計画の立案
事業計画とは、経営計画を実現するための具体的な行動を数値化したものであり、金融機関から融資を受ける際にも必要となります。
事業計画を作成する際には、経営理念や診療方針なども重要です。基本的な考え方や方向性が決まっていないと、どのような患者を診るのか、そのためにはどんな投資が必要なのかが明確にならず、収支の見積ができません。
また、初期投資額や運転資金は多めに計上します。準備中に予定外の出費が発生する可能性があるので、予備資金として想定しておく必要があります。したがって、導入を迷っている設備や医療機器なども計画に入れておきます。後になって不足が生じて金融機関から追加で借入ができたとしても、スケジュールに遅れが発生する可能性があります。
事業計画書の作成を顧問税理士に依頼するケースもありますが、注意が必要です。税理士は税務の専門家であり、経営の専門家ではありません。特に医療に詳しい税理士は限られた存在であることを念頭に入れておくべきです。ただし、医療機関の顧問先を多くもつ税理士さんもいらっしゃいますので、見極めが肝心です。
たとえ税理士に依頼をしたとしても、クリニックの収益目標などは自身で管理することをおすすめします。可能な限り医業経営に詳しい専門家をパートナーにして、合理的なビジネスプランを作成してください。
STEP05 資金調達
資金調達とは、その名の通り開業に必要な資金を準備することです。
経営理念や診療方針、開業場所などの基本的なコンセプトが決まれば、融資を受けるため金融機関との交渉を開始します。
事業計画書の作成ができていれば、建設費用や設備導入費用、人件費などの運転資金などが算出できるはずです。中長期の返済計画をもとに、無理のない範囲で資金を確保するようにします。
主な資金調達先
主な資金調達先は3つです。
- 銀行などの金融機関
- リース会社
- 自己資金や親族からの借入
銀行などの金融機関
1つ目は、銀行などの金融機関からの借入です。
医師の資金調達は他の業種に比べ格段にハードルが低くなります。無理のない計画であれば、比較的容易に融資を受けることが可能です。医師が開業に失敗しても焦げ付くリスクが低いため、銀行としては貸しやすいということになります。
ただ融資を受けやすいからこそ、計画に失敗すると悲惨な結果になることがあります。自分の身の丈にあった計画を立てることが大切です。また、基本的なことではありますが、借入金の返済方式についても知っておく必要があります。
一般的な返済方法は元金均等返済と元利均等返済の2種類です。元金均等返済は、元金を均等にして、利息を上乗せします。一方、元利均等返済は利息と元金を均等に返済します。元金均等返済の方が総支払額は少なくなります。
では元金均等返済の方が良いのかというと、必ずしもそうではありません。元金均等方式は当初の支払額が高くなるので、キャッシュフローが苦しくなるケースが考えられます。状況に応じて選択したり、組み合わせたりすることになります。
リース会社
2つ目は、リース会社の利用です。
リースとは、ユーザーが使用しようしたいものをリース会社が購入し、それを賃貸するという契約です。医療機器をリースにするかどうかは悩むところですが、メリットとデメリットをまとめると以下のようになります。
メリット① 銀行の与信枠に影響しない
1つ目のメリットは、銀行の与信枠に影響を与えないことです。
住宅ローンなどの残債がある場合、銀行の与信枠が減ることがありますが、リース契約の場合は借入には影響しません。金融機関から別途与信枠をもらうのと同様の効果が得られます。
メリット② イニシャルコストが低い
2つ目のメリットは、初期費用を抑えられることです。
手持ちの資金が少なくても、毎月一定額を支払うだけで高額な医療機器を導入することができます。また、固定資産税や減価償却費を計算する必要がないため、経理業務の負担も軽減されます。
デメリット① 支払総額が増加する
1つめのデメリットは、支払総額が増加することです。
借入に比べて、リースの金利のほうが一般的には高くなります。そのため、現金で購入する場合よりも支払総額が増えることになります。現金購入は、比較的長期間使用できる機器で、十分な与信枠がある場合に適しています。
デメリット② 借入期間に比べてリース期間が短い
2つ目のデメリットは、借入期間に比べてリース期間が短いことです。
機械などの設備に対する借入期間は10程度の設定が可能ですが、リース契約の場合は一般的に5~6年となります。リースは返済期間が短いため、毎月の支払いが負担になってしまうことがあります。
購入orリース?判断のポイント
購入するかリースにするかの判断はケースバイケースですが、下記にポイントをまとめます。
どちらか一方のみを利用することはおすすめしません。経済状況や導入する機器の特徴によって適切な選択をすることになります。
購入が適している | リースが適している |
---|---|
十分な資金がある | 資金に余裕がない |
総支払額をできるだけ抑えたい | 定期的に買い替えが必要な機器 (電子カルテ、血液関連機器など) |
機器の寿命が長い、または壊れにくい (心電計、X線装置など) | 修理費用が高額になりやすい機器 (内視鏡、超音波診断装置など) |
自己資金
銀行やリース以外の資金調達の方法として、自己資金があります。
自己資金がなくても開業は可能ですが、あるにこしたことはありません。銀行の融資のタイミングによっては、一時的に自己資金が必要になることもあります。ただ、基本的には自己資金を使うことはおすすめしません。
理由として、医師は融資を受けやすく、他と比べて低い金利で借りることが可能だからです。自己資金は、本当にいざというと時の最終手段として確保しておくべきです。経営が苦しい場合は、銀行も追加融資を渋る可能性があります。
STEP06 設計・施工
設計・施工に関わる業者を決める場合、設計士を利用するかどうかが最初のポイントとなります。
設計士を起用する場合、施工業者はコンペ形式で決定します。一般的なイメージとしては、コンペ形式のほうが費用対効果が高いと思われますが、必ずしもそうとは限りません。
コンペに参加する業者を設計士が選定している場合は、談合などによって思ったほどコストが下がらないことがあります。また、設計士に依頼する場合は、設計・監理料として総工事費の6~8%程度の費用がかかります。通常のクリニックであれば、設計・施工を一括して依頼した方が、コストを抑えられる傾向にあります。
実績のある業者を選択する
クリニックに関わった経験のある業者を選ぶことです。
クリニックの設計には、診療方針に沿った導線設計やバリアフリー化、保健所が求める最低限の設備やレイアウトなどの基準や条件があり、専門的な知識がないと見落としてしまうポイントがいくつかあります。
特に、医療分野に精通していない業者の場合、必要なスペースが確保できない、電気容量が足りない、X線防護工事が高額になるなどの不備が生じる可能性があります。1度着工してしまうと後戻りは難しく、できたとしてもスケジュールに大幅な遅れを招くことが考えられます。
設計・施工は経験豊富な業者を選ぶか、医療に詳しいアドバイザーをパートナーにすることをおすすめします。
STEP07 医療機器の選定
医療機器は予算の大きな部分を占めるため、慎重に検討する必要があります。
診療方針や地域のニーズ、導入後のコストや採算性などを考慮して選択します。医師としての判断だけでなく、経営者としての視点からも投資に見合う効果が得られるかどうかを判断します。また、CT、MRI、X線装置などの大型機器はレイアウトに影響を与えるため、設計と同時に選定する必要があります。
その設備が”必要”か”不要”かだけでなく、採算が合うかどうかも重要なポイントです。他のクリニックや病院との連携、外注のほうがコスト的に有利になることも多いです。
多くの検査を自前で行えるのが理想ですが、過剰な投資は経営を圧迫します。事業計画と照らし合わせて、キャッシュフローを慎重に検討することが大切です。
STEP08 プロモーション戦略の立案
クリニックを経営するうえで、広告は最も重要な戦略の1つです。
広告宣伝なんていかがなものかという医師も以外と多いですが、ただ椅子に座って患者が来るのを待つ時代は終わりました。広告規制に注意をはらい、適切なプロモーション活動を行う必要があります。
主な広告戦略は以下のとおりです。
- 内覧会
- パンフレット
- WEBサイト
- ロードサイン他
内覧会
内覧会の開催は、オープン直前の宣伝をする絶好のチャンスです。
診療圏調査のデータを元に近隣住民にチラシを配布します。内覧会は大々的にクリニックをアピールするチャンスなので、自院の診療圏よりも少し広めのエリアまで配布を行います。医療には広告規制があるため、過度な広告は指導の対象になることがあります。無差別にチラシを配布できるのは、基本的に内覧会のみです。
地域の方々に気軽に訪れてもらい、クリニックの雰囲気や最新の医療機器、スタッフの人柄などを知ってもらう貴重な機会となります。健康相談や簡単な検査を体験していただくイベントの企画もおすすめです。
パンフレット
パンフレットやリーフレットなどの冊子を作るのも広告戦略の1つです。
これらは口コミを誘発するツールになります。厚生労働省や自治体が行った調査によると、医療機関を選ぶ際の情報源として、「家族・友人・知人から紹介される」と答えた患者は7割を超えています。
口コミといっても、医療分野に精通していなければ、友人や知人にクリニックの良さを紹介するのは難しいでしょう。そこで有効なのがパンフレットです。待合室に置いたり、会計時に新患に配ったりすることで、目にしてもらえる機会を増やすことができます。
パンフレットには、診療日や診療時間などの基本的な情報のほか、導入している設備の情報など、患者に知ってもらいたいことを記入します。また、医師の略歴や顔写真、身近なエピソードなどを記載するとより親しみやすくなります。
WEBサイト
ホームページを含むWEBを利用した戦略の構築は必須の時代となりました。
以前は、単にホームページを作るだけの開業医もいましたが、最近ではそうはいきません。クリニックを選ぶ際の情報源として、インターネットでの検索は口コミに次ぐ第2位となっています。
考えてみて欲しいのですが、インターネットで何かを検索するときに、目的の情報が掲載されているページを最後まで見ているでしょうか?おそらく大多数の方が直感的に見やすく、参考にしやすいサイトを選ぶのではないでしょうか。
クリニックも同様です。口コミで勧められても、多くの人がホームページをチェックします。その際に、時代に合っていない古めかしいサイトだったり、スマートフォンに対応していない場合、見てもらえない可能性があります。
予約システムを導入するかは診療方針によりますが、最低限、来院に繋がるようなホームページが必要です。最近では、SNSを有効活用しているクリニックも増えてきました。コスト削減のために自身でホームページを作成する医師もいますが、よほど得意でない限り、専門家に依頼することをお勧めします。
ロードサイン他
他に検討したいのが、アナログメディアの代表格であるロードサインです。
屋外看板や電柱広告、広い意味で捉えれば、駅のホームの看板や電車・バスの車内アナウンスなども含まれます。インターネットが普及する前は、最も重要なメディアの1つでした。
WEBが全盛期の時代にロードサインなんてと思いがちですが、とても大事な要素です。一般的に健康な人は近所にクリニックがあることを意識しません。体調が悪くなって、近くにクリニックがあることを認識します。
そのため、クリニックの存在を知ってもらうには、目につきやすい場所に看板を設置する必要があります。住宅街にあるクリニックの場合は、電柱に広告を出すのも誘導効果あるのでお勧めです。
他には、ラジオやテレビCMなどが考えられます。費用は高額になりがちですが、インタビューのみであれば無料で出演できるケースもあります。
STEP09 求人・採用活動
クリニックの運営は、1人の医師だけでは成り立ちません。
開業医は診察室での医療行為が中心になるため、スタッフはクリニックの重要な顔となります。診療方針や標榜科目によっても異なりますが、人件費は経費の15~20%を占めます。
診療に集中したいからといって、必要以上にスタッフを雇ってしまうと、利益を圧迫し、あっという間に資金不足に陥ってしまう可能性があります。
求人と採用面接のポイント
ここからは、求人と面接のコツをご紹介します。
- 求人を行う数ヶ月前から、他のクリニックの採用情報をチェックする
- 面接の時間をしっかり確保する
- 開業前の研修を充実させる
求人を行う数ヶ月前から、他のクリニックの採用情報をチェックする
1つ目のポイントは、他のクリニックの求人内容をよくチェックすることです。
応募者はいくつかのクリニックを比較して応募するかどうかを決めます。その際、賃金などの待遇面が大きな判断材料となります。早い段階で他の求人をチェックすることで、採用の傾向を把握することができます。数ヶ月前から掲載されているクリニックほど賃金水準が低いことが多いです。
基本的に求職者は、最低レベルの賃金で採用されると思って応募します。経営を圧迫するほど高い賃金で雇う必要はありませんが、地域の水準に合わせて検討する必要があります。
面接の時間をしっかり確保する
2つ目のポイントは、面接の時間を十分に確保することです。
患者と最も長い時間を過ごすのは、医師ではなくスタッフです。そのため、オープニングスタッフはクリニックの雰囲気を映し出す鏡のような存在となります。コミュニケーション能力の低いスタッフを採用してしまうとイメージが悪くなってしまいます。
面接では十分な時間を確保しましょう。忙しさのあまり、面接時間を1人20分程度に抑える医師やコンサルタントも多いですが、これでは採用に値する人材かを判断することは難しく、基本的事項の確認だけで面接が終了してしまいます。
1回や2回の面接で人を判断することは難しいですが、できる限りのことはしたいものです。質問のポイントは、「はい」か「いいえ」で答えられる質問を極力避けることです。特に、前職の退職理由は必ず確認し、性格や価値観など、目にに見えにくい特徴を把握するようにします。
開業前の研修を充実させる
3つ目のポイントは、採用後の教育をしっかり行うことです。
患者からすれば、スタッフの印象はクリニックの印象とイコールであり、患者満足度に大きく影響します。できれば、多少の費用がかかってもホスピタリティやマナーに関する研修を実施することをお勧めします。
経験のある看護師や医療事務は、前職のルールを勝手に採用しがちです。それらの対応が院長の方針に沿っていないケースもあります。研修を通じてスタッフとコミュニケーションをとることで、自院のルールが明確になります。
また、接遇やマナーの研修だけでなく、医療機器の取り扱いに関する研修や、開業前の模擬診療なども忘れてはいけません。経営理念や診療方針を十分に理解してもらった上で開業するようにしましょう。
STEP10 リスクマネジメント
経営者として、万が一のリスクに備えることも重要な仕事です。
どんなに健康であっても予期せぬ事故や病気のリスクを排除することはできません。また、健康上の問題で長期休診をしても、借入金やリース料、人件費などの固定費は支払いがストップしません。
すべてのリスクに備えることはコスト的にも難しいですが、以下のような保険は最低限備えるべきです。
- 生命保険
- 所得補償保険
- 医師賠償責任保険
- 火災保険
生命保険
事業を始める際には、生命保険の見直しが不可欠です。
見直しとは、無駄な保険料の削減も目的の1つですが、万が一があっても残された家族の負担にならない最低限の清算金や生活費を確保することが一番の目的です。借入時に団体信用生命保険に加入していれば、ローンの返済は可能ですが、忘れがちなものとして、リースの残債や違約金などが挙げられます。
クリニックを運営する上で、最低限の生命保険には加入するようにしましょう。
所得補償保険
所得補償保険は、病気やケガで長期療養を余儀なくされた場合を補償する保険です。
病気やケガは生命保険ではカバーできません。もちろん医療保険などからの給付金はありますが、基本的に入院期間しかカバーできません。
所得補償保険は、自宅療養も含めた長期の休業期間をカバーしてくれます。受け取った保険金は、ローンやリース料の支払い、人件費、自身の生活費などに充当することが可能です。
休業時の経済的損失が大きいビジネスを開業する場合、この保険への加入は必須となります。
医師賠償責任保険
忘れてはならないのが、医療訴訟への備えです。
インターネットの普及で患者や家族が医療情報を簡単に入手できる時代となりました。どんなに優れた医師でも、何らかのトラブルやクレームを受けることが想定されます。賠償責任への備えは、自身やスタッフを守るための経営者の責任でもあります。
医師賠償責任保険は、日本医師会のA1会員となることで自動的に付帯されます。日本医師会に加入せずに開業する場合は、民間の保険会社を利用することになります。その場合、クリニック内で発生していない医療事故は補償の対象外となるケースもあるのでよく確認が必要です。
火災保険
開業時に火災保険に加入しない医師はいないでしょう。
リスク対策として、火災保険への加入は必須です。ただ、火災保険は非常に細かい補償内容となるので、詳しい専門家に相談するのが一番です。火災以外に盗難や水害が補償されるのかなど、チェックすべき項目が多くあります。
地域によっては医師会の団体割引等を利用して、保険料を抑えた加入ができる場合があるので、所属する医師会に確認してみるのもいいでしょう。
STEP11 各種行政手続き
クリニックを開業するには、最低でも保健所や厚生局に届出を行う必要があります。
診療内容にもよりますが、提出する書類のボリュームは想像以上に多く、煩雑です。特に以下の2つの書類は、提出時期を間違えると、予定通り診療を開始することができなくなるので注意が必要です。
- 診療所開設届出書(保健所)
- 保険医療機関指定申請書(厚生局)
診療所開設届出書(保健所)
1つ目は、管轄の保健所へ提出する診療所開設届出書です。
一般的には、診療所開設の前月初めに提出します。この届出には、図面や医師免許証などの添付書類が必要ですが、保健所の担当者によって若干手続きに違いがあるので、事前に確認が必要です。
特に、図面の事前確認は忘れがちです。平面図が確定した段階で保健所を訪問し、合わせて届出スケジュールについても確認をしておくと安心です。
保険医療機関指定申請書(厚生局)
2つ目は、厚生局に提出する保険医療機関指定申請書です。
保健所に開設届を提出すると、自由診療はできることになりますが、保険診療を行うことはできません。厚生局に申請書を提出して、指定を受けることで実施できるようになります。開業前月15日までに申請をすることで、基本的には翌月の1日から指定を受けることができます。
その他の届出
診療開設届出書と保険医療機関指定申請書の2点を提出することで、ひとまず診療を開始することはできますが、診療内容によっては他の届出も必要になります。
施設基準や生活保護指定医療機関指定申請書、労災指定医療機関申請書などが挙げられます。また、待合室の面積やベッドの数、従業員の人数によっては、防火管理者の取得や消防計画の提出が必要です。
上記は、基本的な提出書類の一例となります。開業する地域によって、提出時期やルールが異なる場合があるので、事前に各機関へ相談。確認することが大切です。
信頼できるパートナーを見つける
開業で失敗しないためには、信頼できるパートナーを見つけることが大切です。
独学で勉強して開業する医師は少なく、医療機器メーカーやディーラーの支援を受けて開業することがほとんどです。その際、メーカーやディーラーから商品を購入することが前提であれば、コンサルティングは無料で受けることができます。私はそのような支援を否定するつもりはありませんし、専門のコンサルティング会社の利用を推奨することもありません。しかし、それぞれの業界の構造を理解して付き合うことが重要だと考えています。
例えば、メーカーやディーラーは商品を売ること、不動産会社は土地や建物を売ること、会計事務所は顧問契約を取ることが主な目的です。中には、開業してもらうことが目的で、自分たちの利益しか考えない業者も少なからず存在します。
私たちの目的は、決して開業してもらうことが目的ではありません。常に先生の立場に立って適切なアドバイスをし、時には開業しない選択肢を助言することもあります。信頼できるパートナーを見つけることが、開業を成功させる第一歩だと思っています。